・第一話「南呂院の秘話 宇都宮氏の滅亡」平安時代から五百年余り続く名門宇都宮氏一族の滅亡を描いたもの。
1597年、二十二代・国綱の時代に時の権力者・豊臣秀吉によって改易の命が下った。
その理由としては、世継ぎのいなかった国綱は
五奉行の浅野長政の三男を養子として迎え入れることになったが、
これに国綱の弟である高武が反発し、
跡目争いに進展したことで秀吉の不興を買い改易となった、とされている。
しかし、国綱の母・南呂院にはもうひとつ思い当たることがあった。二十一代目藩主・広綱の正室である南呂院は、
夫の死により幼い世継ぎ(国綱)が成人となるまで広綱の死を隠し通し、
我が子を立派に藩主として育てあげます。
1590年、秀吉から北条氏討伐のための出陣要請が来、小田原へ出陣することとなった国綱。
小田原城の落城後、秀吉は南呂院が留守を守る宇都宮城に逗留することになります。
国綱が戦後処理で不在のなか、
名代として南呂院が秀吉を接待することとなり…。
と、ここまで書くとどういう展開になるかは薄々お気づきのことかと思います。
秀吉には「高貴な女性を与えないで下さい」というやつですよ。
結局、二人の間には何事もなかったのですが、
何事もなかったが故に、後に改易させられたという
南呂院だけが知るもうひとつの改易理由が提示されておりました。
秀吉の闇の部分がじめっと怖い。
乱世に生きる武士の妻として母として、己を厳しく律していた南呂院の行動が
結果的にはお家断絶の一因となってしまったというのは
なんとも皮肉でやりきれないですね。
どうでも良いが、この南呂院が鬼佐竹の実妹とは知らんかった。
・第二話「お梅の方と正純 正純の追放」家康の懐刀・本多正純の失脚の謎にまつわるもの。
第一話と同じく「あの事件の裏には一人の女性の存在があった…」系の話です。
ある日、鷹狩りの最中に突然家康から側室のお梅の方を下げ渡された正純。
主君からの下命の真意を測りかね、お梅の方の処遇に困ることとなった。
その後も下げ渡しに対しては幕府の側から何の沙汰もない日々が続いた。
家康の死と父・正信の死で後ろ盾を失った正純は、
秀忠側近たちの台頭により徐々に権勢に翳りが見え始め―。主君の側室を与えられることは
はたして仕事なのか禄なのか、公の事なのか私事なのか、
ことの重大さがわからず、というより分かりすぎるために
考えすぎて固まってしまう正純の姿がありました。
さらにお梅の方に対しては、
大御所様の側室として接するべきか
はたまた下げ渡された以上は己の側室として振舞って良いものか…と、
とにかく悩みまくりの正純。
肝心の釣り天井事件の記述に関しては終盤にあります。
ここで将軍への反逆を表す十余条の罪状に対する返答について
正純が窮した部分は
・お梅の方のための館造営が幕府へ無届けだったこと
・天守閣造営の野心があったこと
これら2点となってました。
さらにこの件に関する一番のお咎めは
御成御殿とお梅の方の館を同時期に造営したことが秀忠には面白くなかった、
ってもうどんな言いがかりw
徳川幕藩体制維持の流れのなかで正純追放はその生け贄であった。(p.111)という極終盤の記述は、冒頭にある家康の座右の銘
「水はよく舟を浮かべ、よく舟を覆す」(荀子)
と照らし合わせるとその意味を改めて考えさせられます。
ちなみにこの故事成語は水=人民、舟=君主ということで
人民の扱いの大切さを説いたものですが、
作品においては、むしろ逆なんじゃないかという印象を受けました。
(水=君主というよりは時代や政治体制そのもの、舟=人民というか臣下ということで)
支配体制の流れに刃向かう者、取り残された者は沈んでいくんだよ的な。
浅く読みすぎですかね…(汗)。
・第三話「伝説・宇都宮釣り天井事件」の顛末戊辰戦争で荒廃した宇都宮の町を舞台に、
在りし日の繁栄を取り戻すために宇都宮城下の豪商・佐野屋久兵衛を中心として
町おこし運動に取り組もうとする商人たちの話です。
久兵衛は江戸の芝居小屋で人気の高かった講釈師・一龍斎貞丈の口演に触れたことをきっかけに、
下野国周辺のお家騒動や謀反話を調べ、
史実の「宇都宮釣り天井事件」と「烏山藩お家騒動」をもとに
貞丈にひとつの講談を創作することを持ちかける。
「真実・宇都宮釣り天井事件」と銘打ったその演目は、上演されるや否や、爆発的な人気を博した。
その裏には宇都宮の豪商である久兵衛のねらいがあった。久兵衛のねらいというのは、
創作物としての「宇都宮釣り天井事件」を有名なものにして、
宇都宮の町が再び脚光を浴びるよう仕向けるものであり、それが見事成功します。
その後、宇都宮商人たちの町おこし運動により、
町は往時の賑わいを取り戻すことになるのです。
商人の久兵衛が宇都宮の復興に尽力する理由は、
己が宇都宮を代表する大店の主であるという理由のほかに、
実は彼自身の出自に関係するものがあったのですよ。
それはかつての宇都宮城主・本多正純ともつながりがあり―。
ネタバレしてしまえば、
久兵衛の先祖(初代佐野屋久兵衛)は正純によって改易させられた佐野藩の藩士で、
改易後は正純に拾われ宇都宮城周辺の整備を任せられる、
という複雑な事情を抱えていたんです。
初代久兵衛が正純に対しては
旧主を追放した恨みと拾ってくれた恩義、という矛盾する感情、
さらに浪人となってしまった者たちに対してはある種の後ろめたさ、
このあたりの状況をもっと叙情豊かに描けば
なかなか面白い話が出来上がると(生意気にも)思うのですが、
作者の意図はそこにはないので文句は言いません。
でももしそうなったらアレだね、杉本さんの
『汚名』みたいな感じになるね。
あ、話が逸れました。
心意気のいい商人・久兵衛のひらめきと
他の商人たちをまとめる力量が冴えてるお話でした。
ラストが希望に満ちてるのが前2作と異なってるところでもあります。