2014-06-06

icon_45_b.gif『粟田口の狂女』再読了。

積読本消化…3月の(えっ

間が空いてしまったので再読してしまいました。
滝口作品好きなんですけど、絶版多いのが悲しい。

伊達勢大軍による味方討ちで、神保隊三百余名は哀れ全滅する。伊達の権勢に遠慮した家康側は、この事件を闇にほうむろうとした。真相を知り、娘婿神保長三郎の無念を思いやる老女お勝は、ひそかに一計を案じて洛中の街頭に立ったが……。大坂夏の陣を題材に、豊臣・徳川の交替劇を鮮烈多彩に描いた歴史小説集(単行本帯より引用)。
滝口 康彦(著)『粟田口の狂女』

大坂の陣を題材とした短編集。
各短編の主人公が抱く苦悩と葛藤の末の決断が非常に重い。
自らの意志を全うしようとした時、犠牲となるのは己の命だけでなく一族郎党の命運、
時には御家断絶までも覚悟しなければならない状況下において
忠義のため、あるいは名誉、報復のため、
命と引き換えにしてでも譲れない信念を貫き通した人々の姿が描かれております。

ストーリーの内容だけを見ればお先真っ暗な鬱ENDが多めですが
己の生き方に誇りを持って死んでいった人々の姿は凛然としていて
読了後は、やりきれなさは多分にあるものの、背筋の伸びるような余韻が残ります。

久しぶりに感想文書いたら張り切って長くなってしまいました。
お時間ある方だけどうぞ…。


・「花のようなる秀頼さまを」
家康より大坂攻めのために兵を出すよう命ぜられた島津家久。
大坂の豊臣方の使者が家久を訪れ大坂城入城を要請したが、
勝ち目のないいくさに手を貸すことはできないと家久は使者を追い返してしまう。
豊臣家が滅びた後、巷では秀頼が生きて鹿児島へ落ち延びたというはやり唄が流れ…。

島津家久(忠恒)が主人公。
真相が推理小説っぽい読み口なのが面白い一編。
驚嘆すべきは大坂方の使者・高屋七郎兵衛の策謀。
秀頼生存の流行り唄ネタはよく見ますが、
なんでよりよって鹿児島へ逃れたか、という点がポイントです。
なんつーか…「災難だったね、家久」って言いたくなる。
そして騒動ある毎に駆り出される義弘お疲れ。隠居の身なのに…。


・「大野修理の娘」
徳川との戦がどうあっても避けられないものとなった豊臣家。
城内外敵ばかりとなってしまった大野修理が娘と密かに画策した最後の一計とは…。

大野治長の娘・葛葉が主人公。
勝気でありながら決して出しゃばりではない、しっかりした娘さんです。
「豊臣を完膚なきまでに滅ぼしてしまうのが父上の役目」とのたまう葛葉かっこいい。
家康に唆されて戦となってしまったけれど、
豊臣の最後までは、断じて家康の思い通りにはさせないという一心で
練り上げた豊臣家滅亡までの筋書きを大野父娘が現実のものとしていくさまが見所です。

また、千姫は家康の野望の道具にされた哀れな人だから
巻き添えにしてはいけないと葛葉は考えます。
…でも結果として
徳川にとっては豊臣滅亡のための道具で
豊臣にとっても徳川からの間者のように扱われる、
どこにも味方のない千姫は違う意味でも可哀想でした。


・「粟田口の狂女」
豊臣を滅ぼして間もない時期に、大身である伊達を刺激するのは控えたい
とした徳川の幕僚らによって揉み消された伊達軍による味方撃ち。
この事件で死亡した神保隊の縁者である一人の老女がとった行動の真意とは。

神保隊を率いる神保相茂の姑・お勝が主人公。
関ヶ原の戦いの折、西軍方の大名・杉若藤七の妻で
夫の死後、ひっそりと暮らしていたこの老女が
非業の死を遂げた娘婿の無念を晴らすため起こした行動、その執念がものすごい。

伊達勢が何故神保隊を攻撃したかについては諸説あるようですが、
一言でいうと「邪魔だから撃ちましたが何か?」で開き直る政宗が政宗すぎる。
そして島津って見るとこ見てるよって話でもある。


・「燃えなかった蝋燭」
冬の陣の折、不覚を取って家康から厳しい叱責を受けた忠朝。
豊臣との再戦に臨み、討死して汚名を返上すると覚悟を決めた忠朝、
夏の陣では毛利勢相手に奮戦し討死するのであったが―。

本多忠朝の近習・小鹿半弥が主人公。
瀕死の主君を見捨てて戦場から逃げ出した半弥が
忠朝が死ななければならなかった理由に気づいてしまうというストーリー。
それは決して誰にも明かすことはできない恐るべき推測であったけれど、
半弥が本多家の家老とともに、推測を真実のものだと確認していく様子が悲痛です。
そんでもって家康のやりようが悪辣すぎる。


・「坂崎乱心」
落城間近の大坂城から千姫を救い出した坂崎出羽守直正。
千姫再嫁の真相を知った直正が密かに企てた謀が幕閣に知られてしまい…。

坂崎直正(直盛)が主人公。
直正、功名心が強く激情家ではあるものの、人倫を尊ぶ一本気な男です。
タイトルで分かる通り、千姫事件を題材にした作品。
千姫事件では、宗矩と正純の動きが面白いですよね。
それはともかく。
「大野修理の娘」と若干リンクしてます。
しかし、ここでの千姫は非難される側。

巷に飛び交う様々な流言と己が実際に見聞きしたことを
照らし合わせた結果、直正がたどり着いた千姫再嫁の真相。
大坂城から逃れる途中に千姫の本音を聞き出すところや
騒動を起こそうと決意するまでの直正の心情が丁寧です。

騒動の責任をめぐり、幕府から坂崎家家臣に渡された主君弑殺の旨の奉書。
ここに本来あるべき正純の名が無いことの理由はともかく、
奉書に名前が載ってたら「あいつの名前があるからこれは罠だ」って言われるし
載らないなら載らないでこらまた罠だって警戒される、
どう転んでも蛇蝎の如く忌み嫌われる正純が私は好きです。


・「孫よ、悪人になれ」
徳川と豊臣が手切れ間近となった今、すでに隠居の身となった毛利輝元は悩んでいた。
家康からの援軍要請に応えつつも
内心では豊臣家を見殺しにすることを心苦しく思っていた輝元は、
筆頭家老の宍戸元続と計らい、毛利家とは一切関わりのない形で大坂城へ入城させるよう画策する。
白羽の矢が立ったのは元続の実弟・元盛であったのだが…。

毛利家筆頭家老・宍戸元続が主人公。
あまりに凡人な主君(輝元)と切れ者の家臣たち(宍戸兄弟)の対比が悲しい。
輝元、悪意はないのです。
ただ、考えが至らないために
忠臣の心情を斟酌することができず、
死に追いやってしまったことの重大さがわかってないんですよねぇ…。
一方、元盛は毛利家のため、そして配下の侍やその家族に至るまで
細やかに気を配った後、潔く死を受け入れます。
と、ここで話が終わっていればイイ話で済むのですが
最後の一章で物語の後味が随分苦々しいものと成り果てます。ぜんぶ輝元のせい。


・「国松斬られ」
大坂落城から約半月後、秀頼の遺児・国松丸が京で捕縛された。
京都所司代屋敷に連れられ、本物であるかどうかが質されることとなった。
取り調べの結果、真の国松丸であると断じられ、六条河原にて処刑されるが…。

京都所司代・板倉勝重が主人公。
国松のお供として従ってきた童子2名とお守役の田中六左衛門。
キーパーソンはこの六左衛門。
国松処刑直後、刑場で「いま打ち首になったのは真の国松丸さまにあらず」と
六左衛門が叫んだことでそれまでの流れが大逆転。
話は再び国松が本物であるか否かに戻ります。
伊賀者を使って国松出生とその後の生活を調べあげていた勝重は、
捕縛された童子と対面し、本物であることを確信します。
生き証人まで用意し、六左衛門の主張を論破しようとする勝重と
あくまでも本物の国松丸は生きていると言い張る六左衛門の問答が読みどころ。
posted by まるひげ at 23:28 | Comment(0) | TrackBack(0) | 時代・歴史モノ | edit | web拍手
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