2010-04-22

icon_45_b.gif『柳生武芸帳七番勝負』読了。

ここ最近、ちょろちょろ読んでる柳生モノをおひとつ。
柳生にハマったきっかけは、去年読んだ荒山さんの『十兵衛両断』だったんですが、
何にハマるにせよ荒山作品を入門にするのは
取り返しがつかない致命的な傷になると思うので
まずはまっとうな時代小説から再出発した次第です。
つーことで、荒山作品は後日再読決定。


剣の一族柳生を襲う豪剣、魔剣。ひらめく柳生新陰流の秘剣。凄絶な剣の死闘と人間ドラマを鮮やかな筆致で描く、異色の作品集。「無刀取りへの道」「幻の九番斬り」「小太刀崩し」他四編(アマゾン・レビューより引用)。
綱淵 謙錠ほか(著)『柳生武芸帳七番勝負 (時代小説セレクト) 』

まずはいつものラインナップから。
全部で7編収録の短編集です。

・「無刀取りへの道 ― 柳生石舟斎」綱淵謙錠
・「幻の九番斬り ― 柳生宗矩」滝口康彦
・「小太刀崩し ― 柳生十兵衛」新宮正春
・「柳枝の剣 ― 柳生友矩」隆慶一郎
・「一つ岩柳陰の太刀 ― 柳生宗冬」中村彰彦
・「秘太刀“放心の位”― 柳生兵庫助」戸部新十郎
・「影像なし ― 柳生連也」津本陽


個人的な好みだけを申し上げますと、
滝口作品と戸部作品が特にお気に入りです。
読了感が切ないモノが好きなのですよ。


以下、あらすじ+ネタバレありの感想文です。
結構長くなってしまいましたので、お時間ある方、どうぞ。



・「無刀取りへの道 ― 柳生石舟斎」綱淵謙錠
師・上泉伊勢守秀綱から託された、新陰流の秘技「無刀取り」を完成させるべく
修行の日々を送る宗厳の姿を描いたもの。

…と言っても、作品のほとんどが新陰流の研究のため諸国を巡る秀綱の半生を綴っており、
無刀取りに関する重要なところで宗厳が登場するという形をとっております。
ゆえに、読んだところ主役は秀綱、あるいは「無刀取り」という技そのもの、
という印象を受けました。


・「幻の九番斬り ― 柳生宗矩」滝口康彦
大坂の陣から14年後、三代将軍の剣術指南役となった宗矩の屋敷に一人の浪人が訪れる。
自らの素性を“大坂の落人”と明かし、「夏の陣のさなか、秀忠本陣にて宗矩と刀を交えた」
ことを証文として出すことを要求するこの浪人の真意とは―?

宗矩と浪人の、緊張感溢れる言葉の遣り取りが手に汗握ります。
ちなみに、こんな感じの遣り取りです。

浪人:秀忠様の本陣へ斬り込みをかけて、あと一歩のところであなたに邪魔されたんだよね…。
宗矩:いや、そんなことは記憶にございません。あなたとは今日が初見ですよ。
浪人:いやいや!そんなはずはない。確かにあの日あの時あの場所で…!
宗矩:いやいやいや!!憶えが無いって言ってるでしょ!アンタもしつこいね!

…現代語に訳すと途端に緊張感ゼロになるという罠。
といった調子で、もはや「やった」「やらない」の水掛け論になります。
どちらも譲りません。
実は、この浪人の言い分の方が事実で、宗矩はそのことを知っているのですが、
それを認めるわけにはいかない宗矩の都合があるのです。
…まぁ、宗矩の都合というのは、
柳生家の、というより将軍家にとって都合の悪い話なんですがね。
話を続けていくうちに、浪人の心意気に胸を打たれた宗矩が、
真実を告げるか否か葛藤するところも見所です。

それまでの緊迫感が昇華するラストが非常に良い雰囲気です。
時代に取り残された武士の一分、とでもいうような切ない余韻を残しております。


・「小太刀崩し ― 柳生十兵衛」新宮正春
大坂の陣直後、自らが助け出した千姫の再嫁の相手が本多忠刻と決まったことに憤慨し、
自らの屋敷に立て篭もった坂崎出羽守成政。
この騒動を収束させるため幕僚たちが評議した結果、
「臣下たちに主を殺させる」という仕儀になったが、
その際、宗矩が成政を陥れたことに坂崎家の家老の遺子が気づき―。

ということで、いわゆる千姫事件ネタです。
成政のこの事件については後味悪いですよね…。

簡単に言ってしまえば、こちらも滝口作品と同様に
「あの件を蒸し返されては上様のご威光にかかわる」話パート2。
…つーか、小説界において、秀忠は将軍家の威光にかかわることばっかりやらかしてま

すいません話がズレました。
成政の死後、遺臣たちの世話をしたことでも知られる宗矩ですが、
そもそも千姫の再嫁先について下手をやらかしたのは宗矩ではなく秀忠。
その不始末の尻拭いを宗矩と十兵衛父子がやる羽目になってます。
武士の意地を貫くために死んだ成政と
何よりお家を第一に考え今の地位を手に入れた宗矩の姿が対照的。

あ、さらにもうひとつ。
あらすじにも書きましたが、幕僚の皆様が相談した結果、
成政の臣下たちに主君弑殺の旨の奉書を与えることになるのですが、その際に

「老中のうち、この処置に反対し、奉書に署名しなかったのは本多上野介正純だけであった」(p.93)。

珍しく褒められたことをしてますね正純。
個人的にはこのエピソードの出典が知りたい。


・「柳枝の剣 ― 柳生友矩」隆慶一郎
尻ひとつ。


・「一つ岩柳陰の太刀 ― 柳生宗冬」中村彰彦
宗矩の末子・列堂は、柳生家の菩提寺である芳徳寺の住持をしていたが、
住持という自らの身分に不満を募らせ、
身勝手な振る舞いで周囲の者の手を焼かせていた。
かねてより列堂とは不仲であった宗冬は、一時江戸を離れ柳生へ帰国するが、
それと前後し、列堂が芳徳寺から姿を消し…。

なんだかあらすじで列堂列堂としか書いてませんが主役は宗冬です
時期的には、尾張柳生との御前仕合の後。
御前仕合で右親指を負傷したことにより、
“真の太刀筋”を会得した宗冬が列堂を懲らしめる話です。

やー…列堂、なんて大変な子…orz


・「秘太刀“放心の位”― 柳生兵庫助」戸部新十郎
隠田がある、との密告を受けて領地取り上げ処分となった柳生の里。
父、兄弟、叔父、家士たちが徐々に里を去り、
残ったのは祖父である石舟斎と孫の兵助のみとなった。
石舟斎は自身が習得した剣技のすべてをこの兵助に伝えることを決意する。
その後兵助は兵法をつきつめるため、柳生の里を離れ諸国を旅する。

尾張柳生の祖・柳生兵庫助利厳の半生を描いたものです。
親馬鹿ならぬ爺馬鹿な石舟斎が見られます(笑)。
宗矩には冷たいのに…。

基本的に、兵助はどの作品でも(って言えるほど柳生モノ読んでないのですが)
良い子ですよね。
ということで、この作品においても素直でものすごく良い子です。
素っ気無い陰気な叔父さん(●矩)にも懐きますよ。
石舟斎の嫡男・厳勝は客死するので家督を継ぐ云々の話も出るものの、
兵助の関心はあくまで剣だけ、という一途な子です。
その点、自ら権力に近づいた宗矩との対比が明確となっておりました。

ラストがなんだか複雑な読了感でした。
これは完全に宗矩…というか江戸柳生が悪役だわ。


・「影像なし ― 柳生連也」津本陽
尾張柳生二代目・連也斎厳包の生涯を描いたもの。
と言っても、上の戸部作品と違ってこちらは小説というよりも簡単な伝記でした。
連也がどんな人生を送ったのかさらりと知ることができます。
この作品が短編中もっともそっけない(笑)。
posted by まるひげ at 02:37 | Comment(4) | TrackBack(0) | 時代・歴史モノ | edit | web拍手
icon_45_b.gifこの記事へのコメント
し…尻ひとつの…あれの原作ですか…!ブルブル
Posted by はた at 2010年04月22日 21:33
うん?
そうそう、尻ひとつで十三万石だよ!
原作は良いよー!
そう怖がらずに一読下さい♪って思ったんだけど、
はたさん隆作品苦手だったっけか…(汗)。
Posted by まるひげ at 2010年04月22日 22:03
興味深い感想でした!

というか「尻ひとつ」一言ではそれは誤解されますよ(汗)

「十兵衛両断」の感想も楽しみです。
Posted by 三田主水 at 2010年04月22日 23:53
興味深いだなんてとんでもないです!
毎度ふざけた感想文で申し訳ありませんです…。

やはり、「尻ひとつ」一言のみはまずかったですね…(反省)。
面倒臭がらず次回はきちんと書こうと思います。

そして、柳生モノをちょっとかじった今となっては、
「十兵衛両断」がどれほどブッ飛んだ内容となっているのかが身に沁みてわかりました。
Posted by まるひげ at 2010年04月23日 02:30
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