図書館レンタ本。
何故か勝手にリレー形式の連作集かと勘違いしてましたが
主題(関ヶ原の戦い)が共通の書き下ろし短編集だったんですね。
 | 慶長五年九月十五日(一六〇〇年十月二十一日)。天下分け目の大勝負―関ヶ原の戦いが勃発。乱世を終わらせる運命を背負ったのは、どの男だったのか(単行本より引用)。 伊東潤(ほか著)『決戦! 関ヶ原』 |
7人の作家によるそれぞれ異なる主人公(東軍3名、西軍3名、どっちつかず1名)が
何を一番に考え、どのような思惑をもって戦いに臨んだのかが描かれます。
個人的には吉川作品が好きでした。
伊東作品と葉室作品は読む前の期待が高かったせいか、ちょっとハズレた感があります。
冲方作品は他の作家さんと文体違うような。時代物っぽくないですね。
以下、目次と感想文をば。
・伊東潤「人を致して」
・吉川永青「笹を噛ませよ」
・天野純希「有楽斎の城」
・上田秀人「無為秀家」
・矢野隆「丸に十文字」
・冲方丁「真紅の米」
・葉室麟「孤狼なり」
・伊東潤「人を致して」(徳川家康)関ヶ原の戦いは家康と三成の共謀であった、という
「ほぅ…」と身を乗り出すような設定なのですが、その後が盛り上がらず…。
ちなみに共謀といっても一方が気を抜けばその隙を突かれて
もう一方が出し抜こうとする関係なので、
まさに狐と狸の化かし合いみたいなもんです。
最後の最後まで危ない橋を渡っていた両軍の様子がわかります。
主君に容赦ない忠勝が頼もしい。
・吉川永青「笹を噛ませよ」(可児才蔵)タイトルで察する通り、主人公は可児才蔵なわけですが、
直政食えねぇ奴だなぁ…というのがまず最初に出てきた感想。
裏の主人公直政ですねこれは。
爽やかでありながら狡猾、大胆な行動の裏に細やかな配慮を見せる直政がとても印象に残ります。
これまで仕えてきた主君はすべて敗者だったとはいえ、
斎藤龍興 → 明智光秀 → 織田信孝 → 柴田勝家 → 三次秀次 → 前田利家…
すごいところばっかり転々としてきたなぁ才蔵。
沸点低すぎな正則とは、なかなか良いコンビ的な主従でした。
・天野純希「有楽斎の城」(織田長益)上杉討伐へ向かう東軍において、
信長の実弟でありながらこれまで陰口を叩かれ続けた初老の男・織田長益。
汚名を返上しようと密かに心熱くしている姿が空回っております。
物語は長益の一人称で物語が進みます。
本人(長益)はこれまで巡り合わせが悪かったために武勲に恵まれなかった、とかぼやいてますが…。
「違うのよ長益! 今までの自分の素行を振り返ってみて!」ってツッコみたくなりました。
さらに武功を立てて立派な茶人になることを夢見てます。茶人に武功は必要ないぞ長益。
でもなんか憎めない人ですな。
・上田秀人「無為秀家」(宇喜多秀家)酒飲んで愚痴ってばっかの宇喜多の坊。
秀頼の天下が何よりも大事という、他ではあまり見ない秀家の姿があります。
終始独り言小説でしたよ。
ラストの作者の問いかけはちょっと唐突かと…。
天下分け目の大戦に勝利した福島家、加藤家、小早川家はみな滅亡した一方で、
秀家の子孫は今も続いています。
配流の身となった秀家は、端から見ればただ命を長らえただけですが
「血を残すことが第一」と捉えると、
時を経て勝者が敗者になり、敗者が勝者となる歴史は確かにわからんもんです。
・矢野隆「丸に十文字」(島津義弘)わずかな手勢で関ヶ原に布陣した島津勢。
関ヶ原までの道のりを苦い思いで回顧する義弘と、血気盛んな豊久が対照的。
敵陣突破で、家康に迫った時の描写が緊迫感あって良いですね。
一瞬なんだけど義弘 VS 忠勝とか。
あと、豊久の伯父御敬愛っぷりが非常に微笑ましい。
・冲方丁「真紅の米」(小早川秀秋)関ヶ原の戦いの切り札となる小早川勢。
東西両軍から参戦を促される瀬戸際で、秀秋の心を決めたのは「米」だった。
…と書けば、「は?」って聞き返されそうですが、自分も「は?」ってなりましたわ。
この短編の見所は秀秋の人物像です。
秀秋が自身の内面と静かに語り合ってるような印象を受けました。
ステレオタイプの凡庸で優柔不断な秀秋ではないんです。
育ちの良さゆえの慎重さと冷静な頭脳を持ちながらも、
他者から理解されなかった秀秋が貫いた決意が描かれます。
ラストはバッドエンドですが、これはこれで結構アリかも。
・葉室麟「孤狼なり」(石田三成)東西両軍の思惑が交差した関ヶ原の戦いは、誰も勝者ではなかった。
正確に言えば、誰も勝者にはさせなかった三成の策謀とはどのようなものであったのか。
戦の後、共に捕縛された恵瓊に対して、
三成が関ヶ原の戦いの全貌を語るものの、どうにも説得力が弱いような…。
キャラ的(キャラって言うな)なことを言えば
恵瓊には最後まで飄々と…というか達観していてほしかった。
つか恵瓊じぃちゃんてそっち系の趣味があったんか。